ECLIPSE   
 
In a crispy moment on ECLIPSE : 渡辺篤史/熱帯JAZZ楽団 ECLIPSE Talking Room”Sound Good!”
渡辺篤史
渡辺篤史


2.音楽に浸る日々


── その後は、どうされたのですか?

渡辺 しばらくして、21歳位の時かな。一気に僕の装置はグレードアップする事になります。まず、ALTECのA7を八畳間に入れました。正面の押し入れから襖を取っ払って、その奥に布団を敷いてクッションにしてね。今で言うインテリア程ではないけど、部屋も奇麗にして、そこでじっくりと音楽を聴く日々が始まりました。

── 時代的に言うと、プレーヤーはGarrardで、アンプはMcintoshですね。

渡辺 そのとおり!実はさっきの友人の親父さんが亡くなる前に使ってた装置を、払い下げてもらったんですよ。その時は、頑張ってお金を集めましたよ〜(笑)。でも、それで聴くジャズの良さといったら..言葉にはなりませんでした。その頃すでに役者の仕事をやっていましたが、音楽を聴いてると仕事の疲れも吹っ飛んだし、手に入れて良かったとしみじみ感じる日々でした。

── その建物はどのような?

渡辺 仙川駅の裏のほうにあった有名なお菓子屋さんの物件でした。裏がガレージになっていて、その二階がキャンティレバー(片持ち梁/建築構造上で言う張り出し部分)になった部屋を借りた。だから狭くても結構音を出せたのです。その三階には画家の先生が住んでていて、所謂アトリエだったんですが、僕が朝からガンガンとジャズを流しているものだから、ある日「もう少し小さくして下さい!」って言われちゃった(苦笑)。だけど、それが縁でその先生と仲良くなるのですから、世の中面白いのですよ。

── 相当大きな音で聴かれてたんでしょうね。

渡辺 あははは、まあね(苦笑)。それで、何時頃ならご不在ですか?と尋ねては「ここぞとばかりに迫力ある音」で楽しんでいました。その先生はパリの絵画サロンの会員とかで、とても紳士な方でした。先生の作品を見に行ってコーヒーをご馳走してもらったり、先生も僕の部屋に来てモーツアルトやベートーベン等のクラシックのレコードを聴いたりしてね。結局それが「僕のクラシック音楽との出会い」になりました。そう言えば、その先生が描かれていた夕日に沈む富士山の絵が印象的でしたね。今でも目を瞑るとその時の情景が浮かんできます。

── 私も渡辺さんと先生のやり取りが浮かんできます。

渡辺 で、年月も経って世田谷の岡本に住む事になるのですが、そこは高台で多摩川が見下ろせて、雑木林やお寺が有ったりと、文化拠点みたいな感じの所でした。そう、辺りのお屋敷の池には野鳥も沢山来るのよ。それで、ある日学校の向かいに低層のマンションが出来たのですぐ見に行きました。すると、その建物の裏が凄い自然林で。番組でもよく言うのですが、所謂「緑の借景」が窓の向こうにずっと広がっていた。丘陵地なので山の懐とでも言うのかな。さっきの池じゃないけど、そこに野鳥達が「すーっ」と飛んで来るのを見ると...もう「ここに決めた!」となりました(笑)。

渡辺篤史
── それは、渡辺さんならではの選択です(笑)。

渡辺 そうでしょ(笑)。その頃の仕事は、東映や東宝も有ったりで、成城にあったレコード屋さんによく通う様になりました。クラックとジャズのレコードばかりを、毎月10枚程買ってたかな。そこは並木道に面した間口の広いお店で、外大の学長さんのご子息がやっていたんですが、音楽評論家にでもなろうかと言う方で、音楽にとても精通されていました。

── なるほど。

渡辺 そんなある日、その方が「お時間があれば、ちょっと見せたいものが有るんです」っていうので、僕は「時間は売るほどありますよ」って答えたりして(笑)。するとね、その奥に重々しい扉があって「グーッ」と開けてくれた...。そこは何と、スピーカー工房だったんですよ。彼はレコード屋でもあり、スピーカーシステムの製作者でもあったと言う訳です。とても高級な機材が並んでいて、アキュフェーズなどもそこで初めて聴いたんですが、面食らったのはピアノ塗装を纏ったゴトーユニットでした。今買ったばかりのレコードを早速聴かせてもらったら、また言葉になりませんでしたよ。だって、まだまだ知らなかった、別のオーディオの世界がそこにあったのですから。

── それが、渡辺さんの次のステップになるのですね。

渡辺 そうなのよ。それで、結局さっきの岡本のマンションに、そのシステムを入れたという訳なんです。もちろん、その後に建てた現在の自宅に、それらはそのままあります。地下の部屋に入れてあって、懐かしく聴いてますよ。ただ、ちょっと部屋の残響がうまく調整できなくてさ(苦笑)。
 
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